【『スペースマガジン』2021年1月号「葦の髄から」第53回】
大飯原発判決と東海第二
先﨑千尋
<大阪地裁が大飯原発設置許可取り消し>
新型コロナウイルスの対応策「勝負の3週間」を巡って国が「完敗」したこと、国会周辺で桜が咲きだしたこと(桜疑惑の再燃)など、取り上げたいことがあるが、今回は福井県にある関西電力大飯原発の再稼働を巡っての大阪地裁判決と、東海第二原発の最近の状況を報告する。
大阪地裁は12月4日、関西電力大飯原発三、四号機の耐震性を巡り、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は違法だという判決を下した。この裁判は、地元福井県や近畿地方の住民らが、同発電所の設置許可を取り消すよう求めていたもので、判決は「原子力規制委員会の判断に看過しがたい過誤、欠落があり、設置許可は違法」という内容だった。
この判決に対して、原子力規制委の更田委員長はその後の記者会見で「規制委の審査に何ら過誤も欠落もなかった。判断には自信を持っている」と反論し、関電や国側は上告している。この裁判はおそらく最高裁まで行くと思われるので、確定したものではないが、東海第二原発など各地で起こされている原発差し止め裁判に影響が及ぶことが考えられる。「琉球新報」は翌日「(原発)再稼働のよりどころを否定。再稼働を推進してきた国や電力会社に与える打撃は大きい」と書いている。
争点となったのは、関電が算出した耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)の値や、これを基に設置を許可した規制委の判断が妥当かどうかだった。関電は、新基準に基づき、大飯原発の基準地震動を福島原発事故前よりも引き上げた八五六ガル(ガルは加速度の単位)と算定し、規制委もこの数値を了承した。
これに対して訴えを起こした住民側は、「この基準地震動は少なくとも現行の1・34倍の一一五〇ガルになる。規制委の審査ガイドにも『ばらつきも考慮される必要がある』と記載されている。現在の原子炉は耐震性を満たしていない」と主張していた。規制委内部でも、元規制委員長代理で地震の専門家である島崎邦彦氏は、この数値は過小評価であると見直しを求めていた。
判決で重視されたのはこの「ばらつき」だ。福島の原発事故や熊本地震などでもそうだったが、想定していない規模の地震が起こることがよくある。一般的に「想定外」と言われている。規制委が審査ガイドを作る際、「基準値(計算式)よりも大きな地震が起きることを想定すべきだ」という指摘があったことを踏まえ、数値を上乗せする必要性に言及。大阪地裁の森鍵一裁判長は「国(規制委)が自ら作った基準通りに従わず、審査すべき点を審査していないので違法」と規制委の審査姿勢を指弾している。
これに対して、先の更田委員長の認識は「地震動の設定に関する保守性の確保については、必要かつ十分な考慮がなされている」というもので、地裁判決が指摘した「ばらつき」に関する発言はなかった。高裁でどのような議論がなされるかが注目される。
私たちの身近にある日本原電東海第二原発はどうか。規制委が認可したのは基準地震動が一〇〇九ガル。この数値がどの程度の規模のものなのか、素人の私にはわからないが、11月に開かれた日本原電の説明会でも「この数値は過小評価ではないか。この2倍の地震がきたら発電所はどうなるのか。震度7でも大丈夫なのか。その時に原子炉の格納容器は破壊されないのか」という質問が出たが、国の基準に従っているというあいまい、おざなりな回答しかなかった。「ばらつき」の上限はどの程度の数値なのかを知りたかった。平均値は想定内だが、福島であったように、事故が起きれば甚大な被害をもたらす原発に、想定内以上の安全性を求めるのが自然なのではないか。
基準地震動の計算式は他の多くの原発の審査にも使われているので、その審査の土台となる規制基準の妥当性が疑われる。「日本経済新聞」は「原発安全審査、信頼性に影。福島事故から10年を迎えようとしている中、規制の棚卸しが必要な時期」と指摘している(5日付)。また「茨城新聞」は「関電は司法判断を謙虚に尊重し、運転は見合わせるべきだ」と提言している(5日付社説)。
同じ「茨城新聞」は12月13日に物理学者の桜井淳氏の時論を載せている。その中で桜井氏は「日本には、原発の安全審査や運転管理などの実施能力がなく、(福島原発の)設置・稼働を認めるべきではなかった。(東京電力は)世界のトップクラスの技術力を備えていたにもかかわらず、事故対応において、致命的な判断ミスを犯した」と指摘している。私はこうした専門家の声を尊重すべきだと考えている。大飯原発だけでなく、原発再稼働の是非を問う裁判の動向に関心を寄せていきたい。
<東海第二を巡るいくつかの動き>
東海第二原発を保有している日本原電は、11月13日から30日まで周辺15市町村の住民を対象に状況説明会を開いた。今回は新規制基準適合審査に基づき認可された安全対策工事の進捗状況の説明と、過酷事故に備えた広域避難計画の具体化への協力要請が主題だった。今回の説明会は新型コロナウイルス対策もあってか、厳重な警戒態勢下で行われ、出席できるのは開催地とその近くの住民に限定された。説明後の質問は、事前に質問用紙を配りそれで回答し、その後の会場での質問はほぼ一方通行。やりとりでは、質問者が聞きたいことにまともに答えていなかった。原電が住民に説明したというアリバイづくりでしかなかった、というのが私の印象だ。
東海第二原発の再稼働に対しては、東海村と周辺の5市の同意が必要だが、原電は安全対策工事を進めているだけで、まだ正式に再稼働したいという意思表示をしていない。
こうした中、東海村の西隣にある那珂市議会は、11月21日に2会場で「市民の皆さまの声を聴く会」を開いた。議会原子力安全対策常任委員会が主催したもので、再稼働の是非について市民の意見を聴こうというもの。市内外から約50人が参加した。意見の多くは東海第二原発の再稼働に反対だった。出された意見の主なものは「JCOや福島事故でわかるように、技術的に安全が確保されない。使用済み燃料などの廃棄物(核のゴミ)処理方法や捨て場が決まっていない。国の核燃料サイクル計画は破綻している。原発に投じるカネを再生エネルギーのために使うべき。農業が壊滅的な影響を受け、地域社会が崩壊するので、再稼働は阻止すべきだ。避難計画を作っても、実際に事故が起きれば避難できない。避難していつ戻れるのかわからない」など。住民投票を実施すべき、議員の声を聴きたいという意見も出された。同議会ではこれまで、議員間の意見交換や東海第二原発の視察などを行っている。市村の意思決定の際、議会の果たす役割は大きく、同議会の今後の動きに注目したい。同市では、4、5月に実施した「原発事故時の避難に関する市民アンケート調査」を実施し、10月にその結果を公表している。
東海第二原発の地元である東海村では、12月19日に村民が原発問題を議論する「自分ごと化会議」をスタートさせた。同村では、東海第二原発問題に関し、住民の意見が分かれており、意向把握をどうするかが課題。事故の影響をもっとも受けやすい地域であり、同時に原発や原子力施設で働く人も多くいる。今回の会議は住民の意向把握の一手段とされる。同村の山田修村長が、政策シンクタンク「構想日本」が島根県松江市で行った中国電力松江原発についての「自分ごと化会議」を東海村でも行おうと考え、実施に移した。これから村民26人が自由に議論し、来年度村長に提案書を出すことになっている。
これより先の11月15日に水戸市で「いばらき未来会議」発足記念集会が開かれた。東海第二原発の再稼働阻止に向け、原発に関わる市民運動の結集を目指す新たな枠組みとして、東海第二原発の再稼働を止める会の村上達也代表らが提唱したもので、9月に発足し、代表に茨城大非常勤講師の乾康代さんと同大名誉教授の曽我日出夫さんが就いた。乾代表は「茨城県の未来を志向しながら原発を止める。それが未来会議の趣旨だ」と挨拶した。
記念集会では、元原子力規制庁技術参与の松田文夫さんが講演し、東海第二原発のテロ対策施設について、作業員の訓練や試験運転が必要になることで、かえって事故のリスクが高まる、と警告した。未来会議の活動には、「たいていの人は再稼働に賛成と反対に揺れている。その人たちを仲間として、緩くつながることが大事だ」とアドバイスした。