東海第二で画期的判決(先崎千尋)

東海第二で画期的な判決

先崎千尋(元瓜連町長)

 異常気象か世相のせいかどうかわからないが、桜の開花がこれまでになく早かった。いつもだと20日過ぎに咲く近くの公園の八重桜がもう満開。コロナで人が騒いでいても、桜はいつものように見事な花を見せてくれる。

 異常というよりは想定外の判決が318日に水戸地裁で出た。日本原子力発電(原電)の東海第二原発の安全性に問題があるとして、県内外の住民らが原電に運転差し止めを求めた訴訟の判決で、前田英子裁判長は「実現可能な避難計画や、実行する体制が整えられているには程遠く、防災体制は極めて不十分」として住民の請求を認め、運転を差し止めるよう言い渡した。

 これまでの原発運転を巡る裁判では、地震や津波、火山の噴火などへの対策が主な争点だったが、今回の判決は、事故が起きた時、避難などで住民の安全を守れるかに注目した。

 この判決について、翌日の新聞各紙は大きく報道した。地元紙茨城新聞はもとより、朝日、毎日、東京の在京紙だけでなく、隣の下野新聞や沖縄の琉球新報も1面トップで報じていた。社説や解説でも「実効性のある避難計画を作るのは机上の空論。現実を直視すれば、原発再稼働は極めて困難」(東京新聞)、「判決は首都圏に近い密集地域での立地そのものを疑問視したに等しい。自治体は原発の是非を巡る議論とは別に、住民の生命を守る観点での対策が求められる」(岩手日報)など、判決内容を支持する声が多く見られた。

 では、当事者の受け止め方はどうか。

 原電の村松衛社長は、判決に承服できないとして東京高裁に控訴した。当然と言えば当然のことだ。しかし、避難計画は原子力規制委員会の審査対象にはなっていないし、避難計画を策定する当事者ではないので、高裁での立論をどう組み立てるのかが興味深い。県や市町村も法廷に出るのだろうか。原電はこれまでに東海第二を再稼働すると明言してこなかったが、控訴したことで再稼働するという意思が問わず語りで明確になった。

一方、弁護団共同代表の河合弘之弁護士は、判決後の記者会見で「避難計画が不十分だという分かりやすい理由で勝訴したのはよい意味で想定外。歴史的な判決だ。人口密集地帯で事故を起こしたらどうするのかという主張が裁判所に届いた。他の訴訟にも応用できる理論だ」と喜んでいた。

 この判決について、国や県の大井川知事、関係する首長らは直接の評価は避けているが、今回の判決の中心となった避難計画は県や30キロ圏内の14市町村が策定するので、いわば当事者。他人事ではないはずだ。知事はこれまで、「安全性検証」「実効性のある避難計画策定」「県民への情報提供」の3条件が整ってから県民などの意見を聞き、再稼働の是非を判断する、と言ってきたのだ。

 今回の判決は、原発の再稼働そのものではなく、避難計画といういわば土俵外でのこと。また、30㌔圏外の原告は敗訴。避難計画をきちんと作れば運転を認めるとも読める判決なので、高裁での審理に注目していきたい。