最も有効な避難計画は再稼働させないこと(先崎千尋)

 

最も有効な避難計画は再稼働させないこと

先崎千尋(元瓜連町長)

 「避難計画は実際には機能しない。絵にかいた餅でしかない。最も有効な避難計画は再稼働させないことだ」。東海第二原発に隣接する那珂市議会の勉強会で桜井勝延前福島県南相馬市長はこう強調した。

 同市議会は常設の原子力安全対策委員会を持ち、これまでに原発関係の有識者を呼び、勉強会を開いてきた。また昨年11月には東海第二原発の再稼働に関して市民の声を聴こうと「市民の皆さまの声を聴く会」を開くなどしてきた。今回の勉強会は、議員全員が東京電力福島第一原発に隣接する自治体の首長の体験談を聴こうと開いたもので、16人の議員の他一般市民にも公開した。

 桜井氏はまず、10年前の事故当時を振り返り、体験した者でないと分からないことがいっぱいあると話し、「大津波で多くの犠牲者が出、救助のさ中に福島第一原発の爆発が起きた。国や県からは何の情報も届かず、テレビの画面で避難指示が出たことを知った。市民は自分の命を守ることが最優先で、行政の指示通りには動かない。それぞれが行きたいところに行く。病院の患者や要介護者の避難が大変だった。東電の作業員は真っ先に遠いところに逃げた。住民のために活動すべき議員も半数以上が逃げ出した。議長は事故の4日後に北海道の千歳空港にいた。新潟県の泉田知事から避難者を受け入れるという電話をもらい、助かった」などと情報が入らなかったこと、バリケードを貼られ、生活物資までもが入らなくなったこと、避難指示などが困難を極めたことなどを細かく報告した。

 南相馬市の居住人口は震災9年後の時点で約17千人減少し、独居や高齢者世帯が増え、若い働き手や子育て世帯が減っている。父親が帰還し就労しても、避難先で生活を続ける母親と子どもが多く、パート、アルバイトが不足しているという。

 桜井氏はさらに、「市民の多くはまだ以前の生活を取り戻せないでいる。復興というと響きはいいが、復興とは何ぞやと思っている。復興五輪と言っているが、誰のために開くのか。東京電力は私たち市民に約束したことを守らない。信用に値しない。東電からの賠償金は原発からの距離で差別される。除染でがんばり、避難区域から解除されると賠償金が減らされる。住民に差別を持ち込むと地域が分断されてしまう。被災地の首長は市民からボコボコにされながらがんばってきた」と自治体とトップの苦悩を語ってくれた。

 講演後の質疑では、「情報はどのようにして入手したのか」、「全市民の避難にかかった時間は」、「情報が伝わっていれば、避難の対応は違っていたのか」などの質問が出された。櫻井氏は、水戸地裁が今年3月に、避難計画の不備などを理由に原電に東海第二の運転差し止めを命じた判決にも触れ、「判決で明らかになったように、避難計画は実際には機能しない」

と話し、「最も重要なことは、市民の命を守ること」と強調した。

 

 桜井氏は現在、「脱原発をめざす首長会議」の世話人として、村上達也前東海村長らと活動を続けている。